ミノとハラミ

もろもろ忘れがちなオタクがのちのち己を振り返るために悪あがきでつけている備忘録

愛の唄を歌おう

観ました。7回。わたしにしては類を見ない多さ。
公演期間中に増やしたんじゃなく諸事情で初日の前にはチケット7枚揃っちゃってたので、これで好みじゃなかったらどうしたもんかと思いましたが*1、結果的に大好きな作品になってよかったです本当に。年末ジャンボより大きな賭けに勝った。

明快が過ぎるテーマとキャッチーが過ぎるクリエイター陣に、発表時はかえって警戒と猜疑を覚えたものですが、今はすいませんでしたアアアアアって土下座したい。脚本も演出も音楽も巧みで、なのにてらいがなかった。もちろん展開に引っ掛かるところが皆無じゃないけど、ギミックにうめええええって唸ったり視覚効果にずりいいいいって地団太踏んだりすることのほうが俄然多かったです。たとえば、マッキーの既存曲の歌詞が脚本にバシッとはまっていること、どのパートを誰がどんな演出で歌うかまで計算され尽くしていることに何度も感心させられたんですが、「はまっている」「計算されている」ことに初見では気づけない、ネタバレを知った上で振り返るとガッテンガッテンした上で胸がギュッと締めつけられる箇所もあって、気づいた瞬間の快感がなんかもうすごい。アハ体験。
予想していたよりずっと俯瞰的に描かれる群像劇であったことが嬉しい誤算だった。あらゆる登場人物にスポットライトが当たる。スポットライトを浴びる時、誰もが主人公の顔をしている。そして、コミカルでハートウォーミングなファンタジーという柔らかな毛布で作品全体が温かく包まれてはいるものの、その内にあるもの――劇中で彼らの直面している現実は厳しく変え難く、その描き方も案外と下世話でエグい。それはちょうどマッキーが、美しいメロディーと伸びやかな歌声に乗せて、意外に俗っぽいことや救いのないこと歌ってるのと似てるのかもしれない。
わたしは群像劇が好きだ。主役の物語と並行して、全ての登場人物が自分が主人公の物語を生きていることを主張する作品が好きだ。それから、ちょっとやそっとの不思議が起こったくらいじゃ根本的には変わりようのない現実が、それでも前後の自分の気の持ちようで変わって見えてくるような、人間のエゴにこそ希望を見いだすような話が好きだ。愛唄ってフィナーレのカタルシスがすごいので大団円に見えるけど、劇中で明らかになった問題のほとんどは、具体的な解決も救いも提示されることのないまま幕が下りてしまう。でも、この後の彼らならきっとがんばれるだろう、たとえ結果が伴わなかったとしても、少なくとも前を向いてできる限りの努力をするに違いない、と信じさせてくれる。そのあたり、ファンタジーとリアルのバランスがちょうどいいフィクションだった。
同級生役の8人の役者がてんでばらばらなフィールドから集って、稽古を通じて仲良くなってるのも、リアルな高校のクラスっぽさが滲んでよかったのかな。自分もまた同級生になった気分で、男子たちがバカやってんな〜って感じで親しみを抱きながら見てました。ひとりひとりが愛しい。

あと、ド新規なりに自担こと北山くんの話をします。
まず、ヒロトという役は、普段から一緒にテレビの仕事をしているおさむさんによる当て書きなんですね。対談で「玉森くんや藤ヶ谷くんは自然に成長していけるタイプ。だけど、北山くんは無理して成長していかないといけない人」って言ってたのがすごく印象的だった。高校卒業10年後の設定なので、ヒロトはちょうど今の北山くんと同じ28歳。まだまだ若造だけど、教師という仕事柄、大人の立場で子供たちと接しなければならない。自分の人生を変えてくれた恩師の遺志を継ぐようにして同じ職業を選び、問題児のいるクラスを自ら名乗りを上げて担当している。そしてプライベートでは、恩師の突然の死後、彼の恋人だった年上の女性と傷を舐め合うように付き合い始め、長い年月を経た今でも、死んだ彼の存在を乗り越えることができずにいる*2ヒロトは常に少し背伸びをして生きている。その生き方を自らに課している。誰にも舐められないように必死で努力してるんだけど、無理してる感じが透けてしまう。その半熟なところが、MCという難しい立場を自ら選んで時にみっともなく奮闘する今の本人の姿と共通している、っていうおさむさんの弁はちょっと残酷な指摘でもあるのかもしれないけど、ジャニーズ内部の舞台の手法とそっくりだな〜と思う。このへん、去年観たキフシャムの宮田くん、オダサクの内くんや熱海の戸塚くんにも同じことを思った*3
あと、他の同級生たちに比べて、ヒロトは個性が薄い。「普段はリーダーシップがあってメンバーひとりひとりのことをよく見ていて気の配れる子だけど、弱みを突かれてカッとなると周りが見えなくなる」というのは伝わってくるものの、それ以上でもそれ以下でもなく、いわゆる二次元的なキャラの立ち方はしていない。だからこそ主人公たりえるのだとも言える。そういうところがまた、うわー北山くんっぽいーと思ったのだった。
何度も観ているとセリフを覚えるので、誰かがトチったりアドリブを入れたりすればわかるわけだけど、北山くんは安定してるねえ。ガヤくらいしか遊ぶ余裕のない役だったこともあって、アドリブは主に同級生とワチャワチャしてる時の動き。楽しそうだったな〜。一方で、相手がセリフで遊んできた時にうまいことセリフで応酬するところを見たのって、せいぜい2回くらいだった気がする。ただ、どの場面もセリフの間がすごくうまいなーと思って観てました。ド新規北山担としての大きな収穫は、舞台演技を初めて生で観て「あっこの人の芝居好きだ」と素直に思えたことと、普段のアイドルソングではあまり聴けない音域と喉の使い方で生の歌声を聴けたことだった。

舞台のフィナーレは、ヒロトと彼のプロポーズを受けた香織(野々すみ花さん)の結婚式という素敵な演出になっています。新郎新婦入場のシーンで扉が開いた瞬間、客が一斉にそちらを振り向き、うずうずと腰を浮かし、美しい二人の姿に感嘆の声を漏らし双眼鏡を構える、会場中が高揚と興奮で満ちるあの感じは、まさしく結婚式のそれでした。カメラを双眼鏡に持ち替えただけだ(笑)。好きなアイドルの結婚式に参列する疑似体験ができるとは思ってもみませんでした。案外いいものだね!すっごく肯定的に受け止めている自分がいて結構びっくりした!w 本編のラストシーンの後、衣装を替えて歌って踊るショータイムからの流れで新郎新婦が入場してくるんだけど、舞台上ではお話が続いていて、ウェディングパーティーというていでやってるので、みんなまだ中の人に戻りきってはいないのね。だけどやっぱり2.5次元くらいにはなっていて、見てるこっちもヒロトと香織おめでとう!とみっくんかっこいいののすみさんかわいい!が混ざっちゃって、よかったね〜きれいだね〜でもちょっぴりさみしいね〜っていう、本当に友人の結婚式と似たような感情の配分で見守っていました。こんな経験もう二度とできないと思う。あと100回でも見たい。

*1:いくら自担が主演でも好きじゃない舞台を3回以上は観られない

*2:この設定が後出しなのもよかった。なんかちょっと生々しくてスキャンダラスなのもよかった

*3:オダサクと熱海は錦織さん演出なのでさもありなん